機械式腕時計分解・組立て講座トライアル

腕時計分解・組立体験記

谷口直行(D47)

2016年1月 久しぶりに南沢を訪れた。
変わらぬ木々や土の匂いを感じ、冷えた校舎や中々火が入らないストーブに懐かしさを感じる一方、ブロック舗装された歩道やサッシのはいった校舎の窓、皺の増えた先生方に流れた歳月を感じさせられる。

今回訪れたのは、同学会が企画中の機械式腕時計の分解組立て講座の全4日間のトライアル。製造業で仕事をしながらも最近はリアルなモノに触れることが少ないこともあって、是非にと参加させてもらうことにした。

初日は、放っておくと磁化する繊細なピンセットや精密ドライバーの消磁、傷見(きずみ)と呼ぶルーペを顔に固定する道具類や作業台を準備するところから。指導してくださるのは、時計店を営み、専門学校の時計コースの助手もされていた荒木斎君(D44)。

箱を開けるとずっしりとした男前な腕時計。(本当にこれ素人が分解・組立てできるの?)今回は卒業生のご協力で、セイコーのY676というキャリバーの自動巻きの機械式時計。時分秒の3針で日付曜日付き。

1960年代に開発された70系と呼ばれるキャリバーの末裔で、1980年代以降のデジタル時計全盛期にも、電池式が実用にならない灼熱の中東や極寒地域向けに生産されてきた心臓部であることや、精度を追求しやすい電子式に対して、ゼンマイ仕掛けの機械式腕時計が精度を出すための様々な工夫・仕組み等々、歴史や機構について解説を聞き、時計本体から心臓部のキャリバーを取り出していく。
かつて人類で初めて月に行った宇宙飛行士たちも、似た機構の機械式腕時計をして月面に立ったのだ。

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自由学園における時計の授業は戦前に遡り、当時はシチズンの方が指導して下さったそうで、男子部芝生の角には今でもシチズン製の日時計がある(恥ずかしながら今回それを知った)。
戦後の物資や指導者の不足で中断されていた時計授業は、卒業生や学園内外の指導者の熱意、服部時計店(現セイコー)のご厚意で再開されるものの、その後は中断や再開が繰り返されて今日に至るそうだ。

2日目はいよいよ本格的な分解。前方のテレビ画面に拡大して写された荒木君の説明を聞き、息を詰めながら蟻より小さいネジを回し、髪の毛ほどの薄さの歯車を外し、ゼンマイの駆動力を正確な時の刻みに変換する精緻な機構を分解していく。

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何かと忙しい日々を過ごす現在の自分が、時間の有り余っていた学生時代を思い出してみて、もし当時同じように時計を分解したとしても、時(とき)を刻む装置への感慨は随分違ったものだっただろう。そして何よりも、手元に視点を合わせること、正確に手を動かすこと、息を詰めて集中すること、そんな機能が経年劣化している自分に気付かされる。そういうのもまた良い。

組立てた時計が無事動くかどうか、あと2回の講座を楽しみにしている。多くの方が、時を思い母校を思うこの講座に参加されることを願う。

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